ガラス転移温度は一般にTgと表記され、PCB積層板のデータシートでよく目にする値です。一方、意味を取り違えられやすい指標でもあります。TgはFR-4が溶ける温度ではなく、基板が高温環境でどれほど長く使えるかを単独で示す値でもありません。
Tgは樹脂の状態が変わり、剛性や熱膨張の挙動が変化する温度域を示します。この変化を理解すると、積層プレス、鉛フリー実装、リワーク、動作時の発熱、繰り返しの温度変化に対し、めっき穴や銅パターンに過大な応力をかけずに耐えられる材料を選びやすくなります。
PCBのガラス転移温度とは#
一般的なFR-4積層板は、ガラス織布の補強材と熱硬化性樹脂で構成されます。Tgより低い温度では、硬化した樹脂は比較的硬いガラス状です。ガラス転移域を通過すると分子の動きが活発になり、樹脂は変形しやすいゴム状の状態になります。
積層板が突然液体になるわけではありません。物性はある温度範囲にわたって変化します。PCBで特に重要なのは、Tgを超えると厚さ方向、つまりZ軸方向の膨張が大きくなることです。この変位が、スルーホールのめっき壁、内層接続部、パッド、樹脂と銅の界面に負荷を与えます。
Tgは摂氏で表示され、材料だけでなく測定方法にも左右されます。示差走査熱量測定(DSC)、動的粘弾性測定(DMA)、熱機械分析(TMA)による値は、そのまま同一基準で扱うことはできません。
PCB製造でTgが重要になる理由#
PCBは製品に組み込まれる前から、複数の高温工程を経験します。多層基板は熱と圧力を加えて積層され、実装ではリフロー、選択はんだ付け、フローはんだ付け、修理時の再加熱が行われることがあります。そのたびに樹脂と銅の構造が膨張・収縮します。
Tgを超えた積層板のZ軸方向と比べると、銅の熱膨張係数はかなり小さくなります。基板の膨張が穴壁のめっき銅を上回ると、膨張差によって機械的ひずみが生じます。大きな熱負荷やその繰り返しは、穴壁や接続角部のクラック、パッドの浮き、条件が悪い場合のCAF(導電性陽極フィラメント)リスク、層間剥離の一因となります。
一般にTgが高いほど、膨張が大きくなる温度域に入るまでの余裕が増します。ただし、耐久性を決めるのはTgだけではありません。Z軸方向の総膨張量、分解温度、層間剥離までの時間、吸湿率、板厚、ビアのアスペクト比、銅めっき品質、実際の温度プロファイルも重要です。
Tgは最高使用温度ではない#
Tgが170°CならPCBを170°Cで連続使用できる、と考えるのはよくある誤りです。Tgは材料の状態変化を測った値であり、連続使用温度の定格ではありません。
長期間の使用可能温度は、材料系全体、該当する場合のUL相対温度指数、銅の密着性、ソルダーレジスト、表面処理、部品、機械的負荷、要求寿命に左右されます。また、短時間のリフローでTgを超えられる基板でも、その温度に近い条件での連続使用に適するとは限りません。
高温で連続運転する製品では、Tgのしきい値だけで判断せず、材料メーカーの詳細データ、該当する安全定格、信頼性試験を確認してください。
TgとTdの違い#
Tgは硬化した高分子の物理的な状態変化を示します。Tdは分解温度で、化学的な劣化を示します。通常は、所定の熱重量分析条件で一定割合の質量減少が生じる温度として示されます。
積層板はTgを超えて再び冷却されても、必ずしも化学分解するわけではありません。ただし、その間も膨張と応力は発生します。分解温度に近づく場合は樹脂の化学構造自体が壊れるため、影響は根本的に異なります。
Isolaが公開する370HRの製品情報は、両者を分けて考える理由をよく示しています。Tgは約180°C、Tdはそれより高い約340°Cとされています。この差はTdまで安全に使用できる温度幅を意味せず、二つの測定値が異なる現象を表していることを示します。
TgとT260・T288#
T260とT288は層間剥離までの時間を測る試験です。積層板の試験片を260°Cまたは288°Cで保持し、試験方法で定めた剥離の応答が現れるまでの時間を示します。
これらの値は、高温加工時の短時間の耐熱性を判断する材料になります。Tgが高くても剥離までの時間が短い材料は、鉛フリー実装の繰り返しや厳しいリワークに適さない場合があります。逆に、Tg、Td、Z軸方向の膨張、耐剥離性のバランスがよい材料系は、総合的に良好な性能を発揮できます。
TgとZ軸方向の熱膨張係数#
熱膨張係数(CTE)は、温度変化に対する寸法変化の割合です。めっき穴は基板の厚さ方向を貫通するため、その信頼性を検討するときはZ軸方向の膨張に特に注目します。
積層板のデータシートには、Tg以下のCTE、Tg以上のCTE、所定の温度範囲におけるZ軸方向の総膨張量が記載されることがあります。通常、Tg以上の値は大幅に高くなります。そのため、Tgが高い材料を選ぶだけでなく、Tgを超える時間を抑え、リフロープロファイルを管理することも重要です。
厚い基板やアスペクト比の大きいめっき穴は、薄い基板の短い穴より大きなひずみを受ける傾向があります。HDI構造、積層マイクロビア、厚銅、リワークの繰り返しにはそれぞれ別の制約もあるため、基板構成全体で評価してください。
一般的なTgの範囲#
PCB材料は標準Tg、中Tg、高Tgと呼び分けられることがありますが、その境界は統一されていません。従来型のFR-4では130°C台前半から中盤程度のTgもあり、鉛フリー対応や高信頼性の材料では、樹脂配合と測定方法に応じて150°C、170°C、180°C以上などが指定されます。
こうした分類名を、メーカー名や材料品番の代わりに使わないでください。公称Tgが同じでも、Td、T288、吸湿率、Dk、Df、CTE、銅箔の引き剥がし強さ、推奨加工条件は異なる場合があります。
例えばIsolaの製品ガイドには、Tgが約150°Cから200°C超までの材料系が掲載され、それぞれ耐熱、高速信号、RF、特殊用途など異なる要件に対応しています。材料選定は複数の特性を合わせて行います。
高Tg基板を検討すべきケース#
次のような設計では、高Tg積層板を検討する価値があります。
- ピーク温度条件が厳しい鉛フリー実装
- 複数回のリフロー、選択はんだ付け、リワーク
- 厚い多層構造、またはアスペクト比の大きい穴
- 高密度実装と大きな内部発熱
- 自動車、産業機器、電源、照明、屋外機器での温度サイクル
- めっき穴の故障を許容しにくい長寿命製品
- 基板へのひずみを増やす大型BGAやパッケージ
- 厚銅、または機械的な拘束のある実装品
すべての基板に高Tgが必要なわけではありません。室温付近で使う単純な2層基板では、高価な材料への変更で得られる利点が小さい場合もあります。工程で受ける熱負荷と信頼性目標を、材料の能力と照らし合わせて判断します。
高Tgなら電気特性もよくなるか#
必ずしもそうではありません。Tgは熱・機械特性の指標です。信号損失とインピーダンスには、比誘電率、誘電正接、銅箔の表面形状、ガラス織布、樹脂量、周波数、積層構成の寸法がより直接的に影響します。
高Tgと低損失を両立する高性能材料もありますが、それは個々の製品配合によるもので、普遍的な関係ではありません。一般的な損失特性の高Tg FR-4は、高速デジタルやRF用の低損失材料より誘電損失が大きいことがあります。
周波数の影響が大きい設計では、使用周波数に対応する測定条件でDkとDfを比較し、製造業者と管理された積層構成を決めてください。Rogers基板材料のガイドでは、RF積層板をより幅広い特性から選定する理由を説明しています。
PCBのTgを選ぶ手順#
- 実装プロファイルを定める。ピーク温度、液相線以上の時間、加熱回数、想定するリワークを記録します。
- 動作時の温度条件を見積もる。周囲温度だけでなく、実際の基板温度を使います。
- 基板構成を確認する。板厚、層数、ビアの種類、アスペクト比、銅厚、大きな熱容量を持つ部分を含めます。
- 信頼性目標を設定する。民生、産業、自動車、航空宇宙、医療では、許容リスクと適格性評価の要件が異なります。
- データシート全体を比較する。Tgに加え、Td、T260/T288、Z軸膨張、吸湿率、Dk、Df、メーカーの加工指針を評価します。
- 材料の調達性を確認する。単に「高Tg」を条件に代替を認めず、承認材料または同等性を判断する基準を指定します。
- 重要な設計を検証する。必要に応じて試験クーポン、断面観察、温度サイクル、製品レベルの試験を行います。
PCBのTg指定で起こりやすいミス#
- 「高Tg FR-4」とだけ書く。これだけでは材料や性能水準を一意に定められません。
- 測定方法を確認せずTgを比較する。DSC、DMA、TMAでは結果が異なることがあります。
- 吸湿を見落とす。吸収した水分は急加熱時の応力を増大させることがあります。
- Tgを使用温度の上限とみなす。連続使用と安全定格には、それぞれ別の根拠が必要です。
- 高いほど必ずよいと思い込む。コスト、調達性、穴あけ加工性、損失、工程との適合性も重要です。
- ソルダーレジストと部品を忘れる。完成実装品の制限は、基材だけで決まるものではありません。
TgとPCB板厚の関係#
板厚が増すと、めっき穴の長さに沿ったZ軸方向の絶対変位も増える場合があります。厚い基板には常に最高Tgが必要という意味ではありませんが、CTE、総膨張量、穴あけ品質、めっき厚、温度サイクル回数の重要性が増します。
板厚は機械的強度、インピーダンスの幾何条件、コネクタとの適合、製造コストにも影響します。板厚と積層材料を別々の仕様として扱う前に、PCB板厚の基礎ガイドも確認してください。
面付け設計のまとめ#
Tgは積層板の樹脂が異なる機械的状態へ移る目安ですが、信頼性のすべてを表すわけではありません。分解への耐性、層間剥離までの時間、Z軸膨張、吸湿挙動、電気特性、基板構造、実際の温度プロファイルを合わせて材料を選定してください。
量産設計では、積層構成、実装温度プロファイル、ビア構造、銅厚、使用条件を製造業者と共有しましょう。材料とDFMのレビューにより、標準FR-4でよいか、より高信頼性の材料系が必要かを検討できます。これらの要件はPCB製造の見積依頼にも記載できます。
PCBのTgに関するよくある質問#
FR-4はTgを超えると溶けますか?
いいえ。FR-4は熱硬化性樹脂を使っており、熱可塑性樹脂のようには溶融しません。Tgを超えると樹脂が変形しやすくなり、膨張挙動が変わります。
Tg 170°Cなら鉛フリーリフローに適していますか?
Tgだけでは判断できません。Td、T260/T288、Z軸膨張、水分管理、実際のリフロープロファイル、熱サイクル回数を確認してください。
Tgが高いPCBは必ず高価ですか?
材料や加工費が高くなる傾向はありますが、実際の差は供給業者の在庫、積層構成、注文数量、必要な認証によって変わります。
Tgが同じ材料なら置き換えられますか?
自動的に同等とはみなせません。CTE、Td、T288、Dk、Df、吸湿率、銅の密着性、難燃性認証、加工挙動が異なる場合があります。
技術資料#
IsolaはTg、Td、T260/T288、電気特性、吸湿特性などを積層板製品ガイドで公開しています。プリント基板の共通設計要件とリジッド基板の設計要件は、IPC-2220設計規格群で扱われています。